Akit Physical Therapy Association

子供のリハビリテーション 子どもの障害とは? ~概論2~

4.障害モデルと発達との関わり

2001年のWHO総会で新国際障害分類(ICIDH2)が提案され、障害を機能障害(impairment)、活動制限(activity limitation),参加制約(participation)という分類とし障害の発生には個人の持つ特徴だけではなく環境の影響が大きいことから環 境の因子もその分類に加えています。このことと子どもの発達との関連について述べてみたいと思います。子どもは年齢(月齢)とともに成長して身体的に大き くなり、運動、知能、言語などの面で機能分化、複雑化、多様化が進みます。発達には、出現、獲得時期、順序、方向性などについて一定の「きまり」がありま す。運動発達は中枢神経の成熟度と密接な関係があり、知的発達の遅れによって、運動発達にも遅れを生ずることは良く知られています。発達の遅れは、子ども にとって機能障害impairmentに相当するのです。しかし、いかなる障害児でも発達の可能性を有しており、それを見出し発達能力を十分に発揮させる ことが、そのこどもに対するリハビリテーションであり、リハビリテーション目的なのだと言えるでしょう。評価や治療の面でも成長、発達との関わりは大き く、子どものリハビリテーションに携わる者は、正常児の心身発達について十分な知識を持つことが求められます。例えば、各種発達テスト、運動年齢テストな どこども特有の評価表があり、徒手筋力テストにおける抵抗の加え方、日常生活運動(ADL)の評価基準についても、こどもの年齢や発達段階についての配慮 は欠かすことができません。四肢先天奇形に対する義手・義足、脳性麻痺や二分脊椎における装具の処方ならびに装着時期は、成長、発達に即して決定されなけ ればなりません。整形外科的手術を行う場合には、術式、実施時期について同様の配慮が必要であり、さらに今後の発達への影響についても考慮しなければなら ないのです。理学療法を実施する上では、発達がどの段階で停滞しているかを把握し、その一つ先の段階を獲得させることを当面の目標とするとともに、先を見 通したプログラムを設定することが必要になります。脳性麻痺児の運動療法で、神経発達学的アプローチneurodevelopmental approachが広く用いられること、作業療法において遊びの要素が多く取り入れられていることのなども、子どものリハビリテーションの特徴を反映して いると言えるでしょう。理学療法の効果を論ずる場合も、対象児にみられた進歩のすべてをその効果とみることは必ずしも妥当ではなく、発達に理学療法効果が 加味された総和が進歩として現れたとみるべきでしょう。

1)障害の成因からみた分類

子どものリハビリテーションの対象となる機能障害は、成因からみて次の4種類に分けられます。
① 出生時の障害がほぼ完成しているもの:
四肢先天奇形、先天性多発性関節拘縮症、二分脊椎等
② 出生前に起因するが、障害の発現は遅れるもの:
脳の先天奇形に伴う脳性麻痺、ダウン症、進行性筋ジストロフィー症、血友病などの遺伝性疾患、染色体異常、代謝異常、風疹、サイトメガロウィルスなどの先天性感染症等
③周産期の異常に関連するもの:脳性麻痺の一部、分娩麻痺
④後天的なもの:種々の外傷、腫瘍性疾患、一般の感染症

この様に子どもの障害の多くは先天的要素を持っており、リハビリテーションというよりはハビリテーションと呼ぶ方がふさわしいとも言われています。

活動制限 activity limitation は、機能障害によって引き起こされる人間の問題としてとらえることができますが、子どもには年齢に応じた日常生活動作があります。 活動制限の評価とアプローチに際しては、このことを常に念頭におかなければなりません。このことを忘れると子どもの機能面の発達のみに拘り結果的に年齢相 応の運動動作の獲得を妨げてしまう場合があります。同様に、参加制約(participation)について大川は、子どもについての参加制約 (participation)として次の3つの問題を挙げています。
第1の問題は、子どもの障害のうちで最も大きな部分を占めているものが先天的な問題であることから、障害の早期発見、早期診断、早期リハビリテーション が必要だということです。こういう子どもたちにとって、このような機会があるかないかということが、最終的な社会的不利の程度を決定することになります。 第2の問題は、障害をもったこどもたちが能力に応じた早期幼児教育の機会を与えられているか、どうかということです。第3には学齢に達したこどもたちがど のような場で教育を受ける機会が得られるか、の3点です。そしていずれにしても、子どもたちにとっては教育の場ということが参加制約の指標となり得ると思 われる、としています。障害のある子ども達にとって教育の保障はそういう意味では最も基本的な権利のひとつとして捉えることができるでしょう。

2)小児病院とリハビリテーション

小児医療の大きな役割は、こどもをすこやかに成長、発達させることにあります。発達障害のある児または予測される児に、出来る限り正常に近い発達を遂げ させることは、小児医療の中でリハビリテーションの担うべき分野だと言えるでしょう。各種の疾病や外傷による後天性の障害に対しても、チーム医療の一環と して早期からリハビリテーションを行い、障害の軽減に努力することが不可欠です。理学療法士はリハビリテーション担当者として、疾病、障害の診断、合併症 の管理などの面で、総合病院におけるチーム医療のメリットを大いに生かした活動をすべきでしょう。最近では、周産期医療施設を有する小児病院が増えつつあ り、NICUからのリハビリテーションが提唱されています。秋田県では秋田日赤病院で理学療法士のNICUでの取り組みが始まったばかりですが、小児専門 病院におけるリハビリテーションの存在価値は大であり、(超)早期療育の場としてのNICUでの取り組みの意義は大きいと思われます。

3)療育における家庭と親

親の存在障害の有無にかかわらず、子どもにとって両親とくに母親の存在は大きい。治療の直接の対象はこどもであっても、指導や説明の対象は親です。成人 の場合、障害受容や訓練意欲が問われるのは障害者自身ですが、子どもの場合には親の受容度(理解度)や意欲の比重が大きいのです。子どものリハビリテー ションのカギを握るのは親であるといっても過言ではありません。子どもの発達の遅れや歪みの原因は、こどもの個体性の障害や疾病ではなく、養育環境として の家庭に由来することもあります。近年における核家族化の進行や地域での連帯意識の希薄化などは、母親の家庭内および社会的孤立を招き、育児不安の大きな 要因となっています。子ども発達に関わることの多いリハビリテーション関係者は、これらのことを視野に入れ、子育て支援の見地から母親に接することも大切 だと思われます。

4)インフォームド・コンセントとコミュニケーション

療育においても、サービスを提供する側と受け入れる側の相互の信頼関係を確立しなければなりません。関係確立に基本となるのは、医療現場に浸透しつつあ るインフォームド・コンセントimformed consent(説明と同意)です。子どものリハビリテーションにおいては、前述のように、親に対して説明を行うことが多いのです。したがって、イン フォームド・コンセントの重要な要素である自己決定権は、親による代理決定の形をとる場合が多々あります。これは、当事者となる親にとって相当な重圧と考 えられます。障害児をもつ両親と医師との間のコミュニケーションに必要な条件として、Wolraichはつぎの3点をあげています。
(1)障害を有する児の発達に関する知識knowledge
(2)障害児に接する態度attitude
(3)両親との対話技術communication skill
この医師の部分を理学療法士に置き換えて見て下さい。理学療法教育の中で障害を有する児の発達に関して学ぶ機会はそう多くはありません。知識が十分でな いために、両親に児の発達について不適切な説明を行ったり、誤った情報を与えたりする事は許されないのです。将来の見通しについての説明は、必要以上に悲 観的または楽観的に過ぎないように注意することが大事です。理学療法士は、自らの一言の重みに十分は配慮するとともに、関係職種に対しても説明の趣旨を徹 底することが望まれます。理学療法士が、豊かな知識と経験の裏づけのもとに障害児とその両親に接すれば、両親の信頼と共感を呼ぶことは間違い有りません。 これに十分な対話技術が加われば、理学療法士と両親の円滑なコミュニケーションが期待できるでしょう。

5.地域療育システムと理学療法士の役割

地域療育システムの中で必要な機能は、乳幼児期から成人期まで年齢で細切れにならない継続性のある援助、重い合併症のある人たちの生活を支える高度の医 療機能、レスパイトサービスをはじめとする24時間対応の家庭生活支援機能、生活の場(家庭、保育所、学校、職場など)への派遣型援助、地域社会の意識変 革を目指す情報の発信などが求められています。療育専門施設には、このような機能を単独で用意するのではなく、地域の資源を発掘しニーズに合わせてコー ディネートして利用者に提供する役割こそが求められているのです14)。
これらの多様な要求に応えるべくアメリカなどでは、一人の児童生徒に対して、複数の専門が異なった人々がカンファレンスを開きながら教育プログラムの検 討・作成・実施に携わっていると言われています。日本の障害児教育においてもティームティチングの必要性は指摘されるものの、医療専門家との連携に限ら ず、異職種間の協力関係は、行政の壁と言うこともあって、現実的には非常に厳しい情況に置かれています。しかし、近年、理学療法士の資格を持った養護学校 専門教諭(自立活動領域専門教諭)も増えてきており今後の活躍が期待されています。

最後に、様々な福祉用具作製に係わっている福祉用具適合技術協会のHPを紹介致しますのでご覧下さい。
福祉用具適合技術協会HP → http://www.tafa.gr.jp/


〔引用文献〕
1)山川友康,坂本達也:肢体不自由児通園施設における小児理学療法の現状と課題、PTジャーナル33:716-721、1999
2)高木憲次-人と業績-:日本肢体不自由児協会、1697
3)北原 佶:早期療育から生涯を見通した長期療育へ、リハビリテーション医学vol36:95-97.1999
4) 武藤安子編著:発達臨床 -人間関係の領野から-,建帛社,1993
5)Hegarty,S:Meeting Special Needs in Ordinary Schools.London,Cassell,1987
6)Mittler,P.and Farrell,P:“Can children with severe learning difficulties be educated in ordinary schools?”,European Journal of Special Needs Education,2, 221-236,1987
7)高松鶴吉:療育と教育の接点を考える,総合リハビリテーション研究大会'87:18-22,1987
10)今川忠男:脳性まひ児の認知障害と理学療法,PTジャーナル32:577-582,1998
11)中田洋二郎:親の障害の認識と受容に関する考察-受容の段階説と慢性的悲哀-,早稲田心理学年報27:83-92,1995
13)宮田広善:肢体不自由通園施設にみる地域療育の歴史と課題,はげみ,2。3月号, 2000

〔参考文献〕
8)工藤俊輔:重度重複障害児の養護・訓練と理学療法-訪問教育による事例検討-,東北理学療法学No5:2-6,1993
9)工藤俊輔:姿勢保持装置「プロンキーパー」,はげみ,8。9月号,1997
12)Werner,D:Disabled Village Children, Palo Alto,Calif,Hesperian Foundation, 1987
14)三浦幸子:幼稚園・保育所と専門療育機関の連携について,立教女学院短期大学紀要26、1994年12月

秋田大学医学部保健学科理学療法学専攻
理学療法士 工藤 俊輔

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