Akit Physical Therapy Association

「寝たきり老人」 秋田魁新報社朝刊(平成12年2月13日)健康欄 掲載記事

「寝たきり老人」といわれるお年寄りは、ほんとうに寝ていることしかできないのでしょうか。

欧米では、寝たきり老人は存在しないそうです。たとえ体が動かなくても昼間はベッドから離れ、いすに座って生活をする習慣があるからです。何らかの援助 が必要でも、昼間は起き、車いすで日常生活を送っているのが普通なのです。ですから、欧米の人には寝たきりという状態は、なかなか理解できないといわれて います。

ある調査によると、日本の寝たきり老人といわれている人の九〇%は、実際には起きて生活できるとされています。つまり、日本の寝たきり老人とは、寝たき りではなく、寝かせきりの実態があるのです。寝たきり老人といわれる人のほとんどは、本当の寝たきりではなく、寝かせきりからつくられた仮性の寝たきりで あるといってよいでしょう。

このような、いわば日本独自ともいえる寝たきり老人ができる背景には、日本人の病気に対する安静第一の療養観と至れり尽くせりの介護観が要因としてある ようです。一般に、身動きのできない老人に対しては、安静を保つことに主眼がおかれ、あれこれこまめに何でもかんでも世話をしてあげることが、よい介護で あると思われているのではないでしょうか。

つえをついて歩いていた人が、車いすを押してもらったら、その方が楽だというこで歩けなくなり、今度は寝室へ食事を運んでもらったら、この方がもっと楽 だということで寝たきりになる。このような話しは結構あります。至れり尽くせりの介護が、本人の依存心を助長し、まだ残っている機能や能力を奪い、結果と して寝たきりをつくってしまうのです。

それでは、寝たきりをつくらない介護とは、どのような介護なのでしょうか。お年寄りの機能の衰えを理解しながら、まだ残っている能力を十分に引き出し、 それをいかして日常生活の自立を目指すという視点が必要です。残された能力を少しでも高め、自立性を促す介助をすることは、寝たきりのお年寄りが人間らし く生きることにつながると思います。

ここで、自立を目指した介助の原則をあげておきましょう。・そばにいる、・目を離さない、・本当に必要なこと以外は手を出さない、の三つです。時間がか かってもできることは自分でするように見守り、どうしてもできないところだけを手伝います。転倒などの危険に配慮し、手助けを最小限にとどめるのです。目 を離さずに手を離せといった精神です。

自分でできたという喜びと自信は、やる気を起こす原動力になります。さらに、家庭内で何らかの役割を持ってもらい、「おかげで助かる」といったり、相談 を持ちかけるようにして、存在感を自覚してもらえれば、生きがいにもつながり、寝かせきりから脱却できるのではないでしょうか。

ただ、家族だけによる介護は大変な負担となります。共倒れにならないためにも、是非、介護保険制度を活用し、社会的なサービスを受けるようにしましょう。
※この文章は秋田魁新報社朝刊(平成12年2月13日)健康欄に掲載されたものです。

市立秋田総合病院 
リハビリテーション科主任 高橋仁美

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